ベーチェット病の死亡率 

Saadoun et al. ARTHRITIS & RHEUMATISM 2010 1002 ACCEPTED
D Saadoun, B Wechsler, K Desseaux et al.
Pierre et Marie Curie-Paris VI University, France

膠原病領域では、メジャーな雑誌であるARTHRITS & RHEUMATISM に採用され、インターネットでは公表されていますが、出版前のホットな論文です。

目的:この論文の目的は、ベーチェット病の長期の死亡率を明らかにすることである。
方法:死亡率と標準化死亡率(SMR)、死亡に関わった因子を国際診断基準に合致した817名について、前向きに解析した。
結果:817名の患者のうち、41名(5%)が観察期間の中央値7.7年で死亡した。死亡時の平均年齢と標準偏差は34.6歳±11.5歳で、39例(95.1%)は男性でした。死因の主なものとしては、大血管病変43.9%、悪性腫瘍14.6%、敗血症を含む中枢神経疾患12.2%であった。1年、及び5年での死亡率は、それぞれ1.2%、3.3%であった。診断時年齢が34歳までの群では、性別と年齢を調整した正常対象者に比べて2.9倍高い死亡率を示した。診断時年齢が35歳以上の患者の死亡率はSMR 1.23(0.75-1.92)であり、健康対照者と有意差が認められなかった。多変量解析では、男性、動脈病変、再燃の高頻度が独立した死亡に関わる因子であった。
結論:このベーチェット病の前向き試験の結果からは、観察期間の中央値7.7年後の死亡率は5%であり、男性、動脈病変、再燃の回数がベーチェット病の死亡率に独立して関連していた。

以下、sakurasasukeの注釈です。
この論文をご紹介するか少し迷いましたが、現在は医療環境が改善されていることを前提としてご理解ください。ベーチェット病の予後から治療を考える際の重要な報告の一つとなる論文です。
1974年から2006年迄筆者らの単一の施設で経験されたベーチェット病患者817名の長期予後をまとめたものです。7.7年での死亡率5%で、死亡した患者41名のうち39名は男性で、女性は2名のみでした。発症時の年齢が35歳以上の方は、基本的に活動性が低い方が多いのかもしれません。
頻度が少ないこの病気で、まとまった評価をするためには、長い時間の情報の蓄積が必要です。しかし、時間の経過により、医療環境も大きく変わってきます。診断手段も限られ、ステロイドや限られた免疫抑制剤以外選択肢がなかった時代から、高画質のMRIやCTなどより明確に病変を映し出し、予後が問題となる特殊型をより早くから診断することが可能となり、保険上の制約はあるにせよレミケードなど新しい治療法が利用できるようになった現在とでは、大きく環境が変化しています。
どういう症例を、より積極的に、より早く治療することが良い予後につながるのかを明らかにすることで、この病気の予後は大きく変わってくる可能性があります。同時にこの論文では、ベーチェットの心血管・中枢神経病変による死亡は全体の約半分、感染症や悪性腫瘍による死亡が1/4を占めており、この背景には糖尿病などの基礎疾患の存在や免疫抑制剤の関与が指摘されており、合併症のチェックや管理も大切と思われます。

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