皮膚粘膜病変に対するニコチン・パッチ治療

Nicotine-patch therapy on mucocutaneous lesions of Behçet’s disease: a case series
Giovanni Ciancio, Matteo Colina, Renato La Corte, Andrea Lo Monaco, Francesco De Leonardis, Francesco Trotta and Marcello Govoni
Rheumatology Section, Department of Clinical and Experimental Medicine, University of Ferrara, Ferrara, Italy.
Rheumatology, Advance Access published on December 16, 2009; doi: doi:10.1093/rheumatology/kep401

目的:ベーチェット病の活動性の皮膚粘膜病変に対するニコチン・パッチ療法について報告する。

方法:難治性の皮膚粘膜病変を有する5名の元喫煙者(最低15年間の喫煙歴、禁煙後平均54日でベーチェット病を発症、HLAB51は4例に陽性、全例ステロイドとコルヒチンを含む治療を併用)を対象に、ニコチンパッチを用いて6カ月間治療した。
結果:5名のうちの4名では、ニコチン・パッチに迅速に反応し、皮膚粘膜病変の完全緩解が経験された。他のベーチェット病の症状は反応せず、治療中に新しい病変の出現を認めた。1名の患者はこの治療は有効ではなかったが、喫煙の再開後迅速に有効性を示した。ニコチンパッチ中止後、1か月で全例皮膚粘膜病変の再発を認めた。

結論:ベーチェット病の皮膚粘膜病変は喫煙によって影響を受けている可能性がある。喫煙とニコチン置き換え治療は、口腔内アフタだけでなく、他の皮膚粘膜病変に有効である可能性があるが、他の全身の病状に対しては、有効性・予防効果ともに証明されていない。少なくとも、過去の喫煙者では、純粋なニコチンは耐用性があり、再発性かつ難治性の皮膚粘膜病変が中心のベーチェット病症例の中には使用が正当化される。

注:一般的に血管炎には喫煙は有害で、神経ベーチェットでは喫煙は進行の危険因子とも報告されています。このためベーチェット病では基本的に喫煙は避けることが望ましいと考えられています。喫煙ではニコチンだけでなく、60種程の発ガン物質が含まれ、すべての癌の1/3はタバコが原因とも言われています。ですから、喫煙を勧めるわけではありません。この報告では難治性皮膚粘膜病変に対して、皮膚から吸収されるニコチン薬の有効性を検討し、効果があったと報告しています。機序は不明ですが、IL-2やTNFの抑制、好中球の活動性の抑制などが考えられています。
意外にも、喫煙やニコチン・パッチは、ベーチェット病の皮膚粘膜病変には改善する方向へ働くことが複数報告されていましたが、どれもletterや抄録などの短い報告が多く、詳しく内容を知ることはできません。また、より重症な他の神経・腸病変・眼病変には有効性は報告されていません。血管病変には避けるべきですし、神経病変にもリスクとなることが示されています。もちろん日本でも保険承認されておらず、確立された治療ではありません。仮に皮膚粘膜病変に効くことがあるとしても、最終的な予後を改善するか、悪影響を与えるかは、まったく別なことと考えるべきです。

関連文献

喫煙やニコチンがベーチェット病の主に皮膚粘膜病変に有効とした報告
1)Silveira et al. Smoking controls symptomatology of Behcet's disease. Arthritis Rheum 1992;35:12s.

2)Soy M et al. Smoking and Behcet's disease. Clin Rheumatol 2000;19:508-9.

3)Scheid P et al. Nicotine patches for aphrhous ulcers due to Behcet's syndrome. N Engl J Med 2000;343:1816-7.

4)Rizvi SW et al. The therapeutic effect of cigarette smoking on oral/genital aphtosis and other manifestaions of Behcet's disease. Clin Exp Rheumatol 2001;19(Suppl.24):S77-8.

細胞レベルでニコチンの抗炎症効果が認められたが、喫煙の効果は否定された基礎的研究報告
5)Kalayciyan A et al. Nicotine and biochanin A, but not cigarette smoke, induce anti-inflammatory effects on keratinocytes and endothelial cells in patients with Behchet's disease. J Invest Dermatol 2007;127:81-9.

喫煙が進行性神経ベーチェットのリスクとなるとした報告
6)Aramaki K et al. HLA-B51 and cigarette smoking as risk factors for chronic progressive neurological manifestations in Behcet's disease. Mod Rheumatol 2007;17:81-2.

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