ベーチェット病:経口避妊薬治療後の症状の緩解

Behcet’s disease: remission of patient symptoms after oral contraceptive therapy
Clinical and Experimental Dermatology, 34, e88-e90,2009
S. H. Oh, J. Y. Kwon,* J. H. Lee, E. C. Han and D. Bang
Department of Dermatology and Cutaneous Biology Research Institute, Department of Obstetrics and Gynecology, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Korea

要旨
経口避妊薬の投与後に緩解に入ったベーチェット病の1例を報告する。
ベーチェット病と診断されて、約2年後から機能性子宮出血が出現した、この間口腔内や陰部潰瘍および結節性紅斑様の病変が緩解することなく持続した。不正出血コントロールのために処方された経口避妊薬は、潰瘍や結節性紅斑の発生も抑制した。

ベーチェット病はいくつものシステムに関わる炎症性疾患であり、虹彩毛様体炎を伴う再発性の口腔内潰瘍と陰部潰瘍を特徴とする。免疫学的病因は完全には解明されておらず、性ホルモンとベーチェット病の関係については小数の報告がなされている。この症例は、性ホルモンがベーチェット病における増悪あるいは促進因子の一つと考えられる可能性を示唆している。

症例
20歳の規則的な生理周期の女性が、日本のベーチェット病研究班の診断基準を満たす再発性の口腔・陰部潰瘍および再発性のぶどう膜炎や結節性紅斑の既往からベーチェット病と診断された。
口腔および陰部潰瘍は生理の始まる2-3日前から出現し、生理の終了後7日以内に消失した。
ベーチェット病と診断された約2年後に、機能性子宮出血が2カ月間認められ、その間、5カ月間の経口コルヒチンとアセチルサリチル酸アスピリン)投与にもかかわらず、口腔・陰部潰瘍、結節性紅斑様病変が緩解することなく持続した。
患者の不正出血をコントロールするため、経口避妊薬が処方された。予想外に、不正出血だけではなく、潰瘍や結節性紅斑様病変の出現も抑制した。更なる経口避妊薬の処方を希望しなかったため、服用は中断した。その後、患者の次の生理周期には潰瘍や結節性紅斑様病変の出現が再発した。経口避妊薬の再開始後、次の生理の際にはベーチェット病の症状は緩解していた。


ベーチェット病自体は、日本では若い男性に活動性が高いことが多いとされていますが、女性では生理の際にベーチェット病の症状が悪化することがあります。この論文は、1症例の報告ですので、多くの方にも通じると判断するのは早計ですし、経口避妊薬自体も副作用もありますので、安易な使用につながるものではありません。また、腸や神経症状への影響などは記載されていません。
この報告では規則的な生理の出血以外に不正な子宮出血が続いたため、経口避妊薬を使ったところ、偶然にもベーチェットの皮膚・粘膜症状が改善し、経口避妊薬の中止、再投与によって再現性のある再燃と改善が認められたとしています。
この論文の考察では、機序として女性ホルモンの一つであるエストロゲンによる炎症性サイトカインであるIL-12やTNF-αの産生抑制や抗炎症性サイトカインであるIL-10の産生刺激などの作用が考えられています。
一方で、ベーチェット病とは無関係に、この報告とは逆に、妊娠や女性ホルモンが結節性紅斑の誘因となるという報告が複数報告されています。このことからは、生理の際の症状の増悪は、女性ホルモンが直接的にと言うより、ホルモン環境の変化が間接的に関係している可能性が指摘されています。生理というのは、短期間に、そしてダイナミックに、女性の中で大きくホルモン環境が変わる現われなのです。
急激なホルモン環境の変化が、炎症や免疫学的な刺激を受けやすい環境と関連するという可能性も指摘されています。
いずれにせよ、現状では女性ホルモンは、ベーチェット病の多様なメカニズムの一部に関連する程度と捉えるのが良いかもしれません。


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