患者と医師

80歳後半の患者さんが、ある程度進んだ癌となり入院していただきました。
それまで別の病気で、外来で10年以上経過を見させていただいた患者さんです。その病気も悪性となることもあり、手術は比較的大きな負担となることが予想されたため、75歳付近から手術をするべきか、敢えてリスクを避けるべきかご相談してきました。その結果、手術は避けて経過観察をして明らかな悪性所見が認められたら改めて相談することとなりました。
90歳を前に、別の臓器に癌が見つかり、通院して6か月毎に検査していたのに、どうしてもっと早く見つからなかったのかとご本人ではなく、ご家族からはご質問を受けました。
ご本人とは10年以上も前から相談して、医学的な標準的な情報とともに、ご本人の人生観や価値観を含めて相談してきました。もちろん、その時の会話が確固とした決心に基づいたものかといえば、不安や動揺の中でのお答えであったであろうとは想像できます。何回もこうした話を繰り返し、80歳の後半まで経過をみて、これからは経過を見ることをどうするか相談していた時でした。
いくつであっても治癒が望めない病気になった時の動揺は十分に理解でき、医療者として受け止めるつもりでいますし、これまでもそうしてきました。
ご家族の了解のもと、私から「これまで長く診させていただいてきましたが、思わぬ伏兵が現れました」と説明を始めました。病状を説明すると少し戸惑われた後、「これまで長く診てきていただいてありがとうございました」、「あとどれくらいでしょうか」と尋ねられました。この病気の今の病状の標準的な予後を伝えさせていただいた後に、でも私たちには完全には予測できるわけではないこと、患者さんによって予後は大きく異なることを付け加えました。患者さんに、これからを判断していただくためには情報をオブラートに包まず、正確に伝えることが原則ですが、一方で、これは真実ですし、それ以上に言葉を付け加えずにはいられなかったのです。
正直、患者さんはもちろん私にとっても辛いことではあるけれども、私は医師であり、できるだけ正確な医学情報を伝えることが仕事です。だからといって不安や混乱に患者さんを導くことが仕事ではありません。統計学的な平均値から算出される月日を正確に伝えることが、90歳近い患者さんにどのようにプラスになるのかと思うこともあります。どうお伝えするかについては、ご家族によっても考えが異なることもしばしばです。
年齢を重ねれば誰にも訪れることですが、終末期をどう受け入れ、対応するかは、本人や家族、そして医療者にとっても、それぞれの人生観の確認なのかもしれません。
医師である前に気持ちや痛みのわかる人でありたいし、そんな思いの中で医療が展開できたらと思っています。

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