ベーチェット病治療薬と保険適応

寛解にもちこむことが難しいベーチェットの患者さんを診療しています。眼に病変はないものの、ステロイドの減量がままなりません。レミケードも選択に挙がりますが、保険適応にはならず、健康保険ではカットされてしまう可能性もあります。そう思ってあらためて添付文書上のベーチェット病に関連した効能を調べてみると以下のとおりでした。(以下のカッコ内は追記しました。代表的な内服・注射薬を選びましたので、軟膏や点眼などは、別に考える必要があります。添付文書に効能の記載がないからといって、効果が認められていないことや効能以外での使用禁止を意味しているわけではありませんので、誤解のないようにお願いします。)


レミケード(インフリキシマブ):ベーチェット病による難治性網膜・ぶどう膜炎(他の薬物療法(シクロスポリン)等の適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に本剤の投与を行う。
イムラン・アザニン(アザチオプリン):潰瘍性大腸炎クローン病(ベーチェット腸病変の記載なし)
ネオーラル(シクロスポリン):ベーチェット病(眼病変のある場合)
プレドニゾロンベーチェット病皮膚病変(眼症状のない場合)、全身性血管炎、難治性口内炎・舌炎
ペンタサ:潰瘍性大腸炎クローン病のみ(ベーチェット腸病変の記載なし)
サラゾピリン:潰瘍性大腸炎・限局性腸炎、非特異性大腸炎(ベーチェット腸病変の記載なし)
コルヒチン:ベーチェット病への効能記載なし


こうしてみると、難病センターのベーチェット病の治療指針に記載のある治療薬であっても、ベーチェット病の治療薬として保険上は認可されていないものが多いことがわかります。ベーチェット病眼病変ではネオーラル、レミケードという流れがあるものの、それ以外の病型についてはまったく取り上げられていないに等しい状況です。

ベーチェット病の腸病変には、ペンタサやサラゾピリンなど、いわゆる5-ASA製剤といわれる薬が良く処方されますし、海外でも治療として一般的です。しかし、保険上は厳密には適応になっていません。

コルヒチンなどは古い薬で、唯一の効能である痛風には、その後現れた薬が広く用いられていて、恐らく痛風に対してコルヒチンが使われることはほとんどないものと思います。一方で、ベーチェット病や地中海熱、あるいは結節性紅斑など、患者数は少ないが、他に明確な治療薬がない保険適応外の使用が比率的には少なくないように感じています。

プレドニゾロンの「全身性血管炎」は様々な疾患を含む病名で、ベーチェット病もその一部と解釈できる可能性もあります。また、プレドニゾロンとサラゾピリンの「限局性腸炎」というのは、昔に使われた病名で、クローン病に近い病態を指すと個人的には理解しています。定義もやや曖昧で、ベーチェットの腸病変については、医師は敢えてこうした病名を追加したり、病状について追加説明をして、保険側も弾力的に解釈して運用されているのが現状でしょう。

保険承認、安全性の確保などの仕組みが、現実に追いついていないように思えます。海外でのデータをもとに、比較的少ないデータで承認申請ができるなど、変わりつつはあるのですが、取り扱う範囲の広範さや重要性に比べて、システムは貧弱だと言わざるをえません。

内外のエビデンスを利用して、炎症性腸疾患やリウマチなどと同様に保険診療レベルでもベーチェット病としての診療体系を明示することは意味のあることだと考えます。現実には、保険診療が受けられるかで、治療法が変わることもないとはいえません。

このためには何が必要かと考えると、患者数も少なく、薬価も安い薬を承認申請する企業はほとんどないのが実情ですから、国、特定疾患研究班、関連学会、患者団体が協力して申請し、治療の標準化やアルゴリズムの作成を進めることが必要です。全国どこでも、基準に沿った、その時代で最も良いと考えられる治療を受けられるようになって欲しいと思います。

分子レベルでの病態解明や分子標的薬治療開発の研究とともに、標準的な治療が明示されることで、今病気を患っている患者の不安や迷いは軽減されます。負担の大きなお仕事とは思いますが、このためには組織的な活動が求められますので、様々な立場からの参加と協力が不可欠です。


にほんブログ村 病気ブログ ベーチェット病へ
にほんブログ村

にほんブログ村 病気ブログ 難病(特定疾患)へ
にほんブログ村