分子標的治療薬

現在、たくさんの新薬が開発されています。大きく注目を集めているのが分子標的治療を可能とする分子標的薬です。炎症や腫瘍のメカニズムの過程に関わる重要な分子をターゲットにして、そのタンパク質の機能を阻害したり、信号のレセプターに作用して作用を止めたり、と多くの期待がもたれています。

レミケードやヒュミラなど、ベーチェットやリウマチでも多く使われています。薬害で注目されたイレッサなども肺がんに対する分子標的治療薬の一つです。慢性骨髄性白血病に対するイマチニブも大きく治療法を変えました。

一方で、そもそもの疾患とターゲットとなる分子との関連が比較的薄い場合や他にも多数の関連経路が推定される場合には、効果は限局的であったり、次第に効果が薄れたり、副作用の方が強くでてしまうこともあります。

例えば、現在、肝癌に対する分子標的治療薬としてソラフェニブが挙げられます。肝癌に対する飲み薬として、初めて生存期間を大きく延長したことが有名雑誌に報告され、一躍注目を集めました。海外のあるデータでは、進行肝細胞がんの50%生存期間を、偽薬の7.9ヶ月に対してソラフェニブでは10.7ヶ月に延長させたことが示されています。こうしたデータをもとに、本邦でも進行肝細胞癌に対して認可されました。しかしながら、よくよくデータを調べてみると、この検討ではかなり肝臓機能が良い患者さんが対象で、緻密な画像診断や治療が行われている日本の施設では、この薬を使わずとも同等以上の治療成績を示している病院も少なくありません。従来からの治療を繰り返して、その次の段階で使おうとすると期待したような効果が得られないこともあります。

膵臓がんは、かつては有効な治療法がない病気のひとつでしたが、ゲムシタビンという抗がん剤が開発されて、治療法が大きく変わりました。それ以来、この薬を超える薬やこの薬と別の薬を組み合わせることによって、効果を上げられないか検討が進められています。エルロチニブという分子標的薬が、ゲムシタビンとの組み合わせで全生存期間を延長させたと報告されました。その差は、50%生存期間で0.3ヶ月でした。かなり高価な薬価となることが予想され、副作用にも慎重な対応が求められるなかで、この差に否定的な考えも当然あって然るべきですが、一方で、平均には現れない、より効果の高い集団があるのではないか、という指摘にも耳を傾ける必要もあります。

新薬には大きな期待をもっていますが、短期、長期における予想外の副作用への注意やこれまで積み上げられてきた治療経験の中で、どういう位置付けとするのかという視点が不可欠です。巨額な開発費を費やしたメーカーは、薬として承認されて、広く使われることを期待するわけですが、データを広い視野で、客観的に、しばしば批判的にみることが必要になっています。しばしば問題となるように新薬の副作用の評価は難しいです。今は全例調査といって、発売からしばらくは使われるすべての患者さんについて副作用を調べることになっています。それでも頻度の低い副作用は明らかになるまでに時間がかかります。

自分が治療選択の参考としている臨床試験や期待している新薬の報告には、どの薬を使って治療する群に割り付けられるかや未知の副作用など、避けて通れない問題があります。これまでたくさんの患者さんの参加があって、今の情報が積み重ねられてきたことも事実です。新薬に対する薬害訴訟が起きるたびに、何か変わるべきことが、製薬メーカー側も、医療側も、そして患者側もあるのだろうかと思います。

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