ひと時のお別れ

担当していたがん患者さんとひと時のお別れをしました。
以前にもとりあげたことのある患者さんが体調を崩され、入院していただきました。初めてお会いした時から約2年近く入院、外来で診察させていただきました。最初の入院時に、がんであること、手術ができないことなど、御家族も交えて率直に説明させていただきました。最初、治療は順調とは言えず、いくつかの障害を乗り越えていただきました。治療が外来に移ってからも、いくつかの抗がん剤をはじめとする治療を相談しながら行ってきましたが、効果が薄れてきた段階でその旨お話し、今後のことを相談しました。患者さんは取り乱すこともなく、淡々と最後は緩和医療を希望されました。今回、病状が変化し、入院することが必要な処置を行った後で、これからどうするかあらためて相談しました。もししばらく時間があるのであれば、自宅に帰って過ごして、さらに体調が悪くなれば、他病院の緩和医療を専門とする病棟に入っることを希望されました。既に一度は受診を済ませてある他病院の緩和医療外来を再度受診していただき入院の予約をしていただくこと、それまでの間の訪問看護などの手はずを整え、退院前日の夜消灯間際でしたが病室を訪れ、お話をしました。
「いかがですか?」
「明日退院します、体調からは自分でもそれほど長く自宅に居ることができるとは思っていません、入院している方が気分的にも楽なこともありますし・・。お世話になりました。」
「2年前初めて入院された時から、入院、外来を通じて率直に相談しながら、これまで治療を続けてきました。限られた時間や施設の制限から御不便や不安もかけてしまったこともあるとは思いますが、本当に治療に協力していただけたので、できる治療はできたと思います。」
「最初の入院の時から病状のことは聞いていましたので、病気のことは自分でもわかっています。来週には緩和医療の病院を受診しますが、先生の外来の予約も入っています。」
「そうですね、緩和医療のベットの状況が分からないので、念のため私の外来も予約してあります。緩和へ入院の目処が決まっていたら、体調次第で私の外来はパスしても大丈夫です」と言ってから、なんだか縁が切れてしまうような気がして「・・・そのときは、電話だけでもかまいませんよ」と付け加えるように慌てて伝えました。
別れ際に右手を差し出すと、管の入った体を起き上がるようにしながら最後に患者さんと握手をして別れました。とても力強い、父を思い出させるような握手でした。またいつかお会いすることがあったら、その時はお話しましょう・・・。

できることはやったという思いと、もっとできることはなかったのかという思い、これまで何度となく経験した同じ場面を思い出しながら家へと戻りました。


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