ベーチェット病による大動脈弁閉鎖不全症に対する外科治療の長期経験

Dong Seop Jeong, MD, PhD, Kyung-Hwan Kim, MD, PhD, Jun Sung Kim, MD, and Hyun Ahn, MD, PhD
Department of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Seoul National University Borame Medical Center, and Department of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Seoul National University Hospital, Seoul, South Korea

Ann Thorac Surg 2009;87:1775-82

背景:ベーチェット病における心臓病変は稀ではあるが、重症な合併症であるとともに、弁置換術後の後期弁脱落や大動脈基部の仮性動脈瘤の結果として、心臓外科医にとっての現状での挑戦でもある。これらに関してはこれまで殆ど報告されていない。この論文では、ベーチェット病による大動脈弁逆流を伴う患者の臨床データと外科的治療の結果を解析した。

方法:1986年3月から2008年6月までに、19名のベーチェット病による大動脈弁閉鎖不全患者が外科的に治療された。男性は15名、女性は4名、年齢は24歳から55歳、平均39±7歳であった。初回手術からの平均観察期間は77.4±68.1ヶ月(9-271ヶ月)であった。
結果:全体における死亡率は19例中の9例、47.3%であったが、初回手術時の早期死亡はなかった。全死亡例は第2回手術後に起こり、その死因は心低拍出量6例、突然の大動脈弁逆流の増悪が3例であった。赤血球沈降速度(血沈)とCRP濃度は、無増悪期間と逆相関を認めた。19例中の15例では2回以上の手術が行われ、再手術の合計は27回(1人1-4回)であった。全症例における5年生存率は25.4±7.2%、13年では18.5±6.7%であった。13年目での無増悪生存は大動脈基部置換術を受けた患者では39.2%±14.1%であったが、弁置換術を受けた患者では4±3.9%で、有意差が認められた(P<0.001)。13年目での無増悪生存は免疫抑制治療を受けた患者では33.7±11.0%であったのに対し、受けていなかった患者では0%であった(P<0.001)。
結論:この病態における死亡率は極めて高く、手術後の炎症マーカーと相関していることが分かった。大動脈基部置換術と術後の免疫抑制治療が助けとなる可能性がある。

注:ベーチェット病は全身の血管に病変を起こすことが知られています。特に脳、心臓や大動脈などの血管病変ではしばしば重篤な病態を引き起こします。この論文はベーチェット病の大動脈病変の結果として大動脈弁閉鎖不全を起こした患者の韓国のソウル大学での経験を報告したもので、単純な大動脈弁置換術を行った場合は長期的な予後が不良なこと、大きな手術とはなりますが、Bentall型手術といわれる大動脈弁を含めた人工血管を用いた大動脈基部置換術の方が長期的には予後が良いこと、術後の炎症が抑えられて、炎症マーカーが低いことが増悪の予防につながり、これには免疫抑制治療が有効な可能性が示唆されたことが主な主張です。ベーチェット病の血管病変では、弁や血管の縫合部などで病変部と非病変部の境界の決定が困難で、血管炎による潜在的な血流障害部位を含めた手術を支持する主張となっています。
日本からも1999年から2000年にかけて大阪の国立循環器病センターで安藤太三先生らが10例、11例をまとめた報告があります。現在、安藤先生は愛知の藤田保健衛生大学心臓血管外科へ移られています。内外の他の施設からも散発的な報告はみられますが、この報告の韓国のナショナル・センターともいえる施設であっても、22年間で19例、年1例にも満たない状況からもわかるように、述べられる症例数も限られているのが現状です。
対象となられた患者さん一人ひとりの闘病を思うとともに、少しずつですが、より良い治療のあり方が積み重ねられたことに感謝したいと思います。

2009年7月22日追記
国立循環器病センターの片岡先生からベーチェット病に対するBentall型人工血管置換術後3か月で仮性動脈瘤をきたし、左冠動脈を圧排したため、再置換手術が必要となった症例の報告がなされています。Bentall型手術であっても吻合部近くに動脈瘤の形成を防ぐことは難しいことがコメントされていますが、この症例ではCRP高値が持続していたなど再発しやすい状態にあったことが示され、その後プレドニンゾロンでしっかりとコントロールされてからは2年余り再発がないと報告されています。

1999年ー2000年の国立循環器病センター時代の安藤先生の関連論文です。
Valved conduit operation for aortic regurgitation associated with Behcet's disease. Ando M, Sasako Y, Okita Y, Tagusari O, Kitamura S. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg. 2000 Jul;48(7):424-7.

Surgery for aortic regurgitation caused by Behcet's disease: a clinical study of 11 patients. Ando M, Okita Y, Sasako Y, Kobayashi J, Tagusari O, Kitamura S. J Card Surg. 1999 Mar-Apr;14(2):116-21.

Surgical treatment of Behcet's disease involving aortic regurgitation. Ando M, Kosakai Y, Okita Y, Nakano K, Kitamura S. Ann Thorac Surg. 1999 Dec;68(6):2136-40.

2009年1月国立循環器病センター片岡先生からの症例報告です。
IMAGE CARDIO MED: Oppression of left main trunk due to pseudoaneurysm with graft detachment in patients with Behcet disease previously treated by the Bentall procedure.Kataoka Y, Tsutsumi T, Ishibashi K, Higashi M, Morii I, Kawamura A, Ishibashi-Ueda H, Minatoya K, Ogino H, Otsuka Y.
National Cardiovascular Center, Osaka, Japan. Circulation. 2009 Jun 2;119(21):2858-9.


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