インフリキシマブ治療終了後重症ベーチェット病の緩解の持続

ベーチェット病の早期にインフリキシマブ(レミケード)を用いて治療することの有効性を指摘する報告で、2009年Rheumatologyという国際誌に編集者への手紙として掲載された論文です。IGNAZIO OLIVIERI et al. J Rheumatol 2009;36:4

(以下、本文)
2008年5月の本雑誌に、インフリキシマブ治療後長期寛解が持続し、国際陸上競技に参加が可能となったベーチェット病を有するイタリアのオリンピック陸上選手を報告した1)。現在まで完全緩解の期間は3.5年となった。最近の12カ月は、インフリキシマブの投与量は体重あたり、3㎎/kgで、投与間隔も3カ月となっている。以前は5 mg/kg、2か月毎であった。アザチオプリン(イムラン)は0.7 mg/kg/dayの低容量でインフリキシマブの免疫原性を抑制すること(注:インフリキシマブに対する抗体が産生され、効果が減弱することを予防することを指していると推定される)を目的に常に服用している。このような低容量でベーチェット病の完全緩解が維持できていることから、治療の中断を目指すことも可能かもしれない。しかし、その陸上選手は現在も現役で、あと2年以上は競技継続を希望しているため、治療を継続することにした。
また、インフリキシマブ中止後緩解が持続している別の患者についても経過を観察している。この患者は24歳の男性で、2001年11月にLucaniaリウマチ科の臨床外来を受診した。左眼のぶどう膜炎で6か月前に発症した。その後に再発性の口腔内アフタ、両側の前眼部ぶどう膜炎、結節性紅斑が出現した。 既往歴や家族歴は特別なものはない。(一部略)HLA B51は陽性。シクロスポリン3 mg/kg/日とプレドニゾン25㎎/日が投与された。その後数カ月で眼と皮膚病変の部分的な改善が認められた。プレドニゾンは4 mg/日まで減量した。5月には血中クレアチニンが軽度上昇したためシクロスポリンを2.5mg/日まで減量した。2002年9月に左眼の後部ぶどう膜炎がシクロスポリンの投与によっても悪化が認められた。患者の同意のもと、シクロスポリンを中止し、インフリキシマブ5 mg/kgの静脈内投与を0週、2週、6週、以後2か月毎の投与を行った。 急速な眼症状と所見の改善が認められ、3回目の投与後消失した。粘膜皮膚病変は消失し、以後再び現れなかった。患者は13回目の投与後、2004年12月にインフリキシマブ治療継続への同意を取り下げた。その後2年間いかなるベーチェット病の症状も所見もなかったため、治療の継続を望まなかった。以後、年2回検査を行っているが、現在まで完全緩解のままであった。この患者はインフリキシマブで非常に長い緩解が得られ、6年間の観察期間のうち、2年はインフリキシマブ投与で、4年はいずれの薬も服用していない。陸上選手の例と異なり、インフリキシマブ治療終了後も完全緩解が持続している。両患者とも全身合併症を発症しやすい若い男性であり、有意に罹患率、死亡率が高いことが知られている。
今回の我々の経験した症例は、インフリキシマブによって得られた緩解はインフリキシマブ投与終了後も長期間持続しうることが示唆された。ここで一つの疑問が生じる。それは、私たちの2症例の様に、インフリキシマブを用いて早期にベーチェット病の治療を行うことで疾患から回復することができるかであり、その答えは多数患者からの検討とわれわれの2症例の経過観察の継続によって明らかになるであろう。

REFERENCES
1. Olivieri I, Latanza L, Siringo S, Peruz G, Di Iorio V. Successful treatment of severe Behcet's disease with infliximab in an Italian Olympic athlete. J Rheumatol 2008;35:930-2.

注:著者の経験した2症例を通じて問題提起している報告ですので、必ずしもベーチェット病全体でのレミケードの効果を表しているわけではないことには注意する必要があります。10年程度の観察期間からのデータによれば、慢性関節リウマチでは早期からレミケードを用いた場合には、骨破壊が止まり回復したり、その後レミケードを中止することができる症例が存在することが報告されています。ベーチェット病の大きな問題は、慢性的な再燃だけでなく、時に大きな後遺症を残すことです。特に若い男性やHLA B51陽性者では、この頻度が相対的に高いとされ、後遺症を残す前の早期から確実に疾患を抑える治療が必要とする考えもあります。このときに使われる治療薬として現状ではもっとも有望なのはレミケードと考えられています。早期からレミケードが使われた場合、最終的に中止できる症例がどの程度あるのか、あるとすればどういう症例か、など関節リウマチより患者数の少ないベーチェットではまだわかっていません。一方で、ベーチェット病にも皮膚粘膜病変のみの予後の良いものも少なくありません。こういったケースは副作用や医療費の点からは対象とはすべきではないと考えますが、長期使用に伴うレミケードに対する効果減弱の問題と共に、レミケードを使った方がよい人、使い始める時期の判断についても今後の検討が必要です。


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