講演会「ホスピスから学ぶ対人援助」から

めぐみ在宅クリニックの小澤竹俊先生のご講演を聴いてきました。テレビでも在宅終末期医療の担い手として取り上げられることも多いので、ご存知の方も多いと思います。

私もこれまで多くの死に立ち会ってきました。医師になって1年目、まだインターネットもない頃ですから、主な情報源は月刊の医学雑誌と医学書でした、終末期の患者さんを担当し、「もっと良い治療はないのか」、「こうすればもっと良いのではないか」、「自分が担当医でなければもっと良い治療があるのではないか」、などと考え、深夜帰り道で考えが浮かぶと、もう一度病院に戻って指示を出し直すこともありました。後で考えると大きな違いではないことなのですが、気になってそのまま帰る気にはなれませんでした。頭の中で思いやることはできても、本人の立場にはなれませんし、家族の立場にもなれません。患者さんと距離がわからず悶々としていたとき、病気なのは私ではなく、重要なのは私は医師として何ができるかだと気づいた時、少し気持ちが楽になったのを覚えています。それからは少しずつ適切な距離を保ち、看護師などとともにチームとして診療することで対応してきました。

ご講演の内容は、薬などによる直接的な苦痛の除去以外の援助が中心で、
「理不尽な状況にある人を理解することができるか?」「励ましに終わらない援助の在り方は?」など、いくつかの事例を交えたお話はとても分かりやすいものでした。

「真に理解することはできなくても、苦しむ人から見た、分かってくれる人、理解者になることはできる」というお話を聴いて、研修医の頃の自分を思い出すと共に、患者さんからみた、理解者になることが難しい場合でも、良き聞き手にはなれるのではと思いました。一方で、こうした精神的・心理的な支えの役割が医療以外にないとすれば、日本の精神文化の寂しさを感じざるを得ませんでした。あらためて、若く、健康な頃から、命や死、家族、宗教、信仰について考える機会を増やすことは大切なことと思いました。

人生の終末を迎えられる人を支えることを日々の仕事とすることは、肉体的にも、精神的にも大変なことです。死を近くに感じながら、患者さんに「ONLY ONE」として向き合うことの負担は、言葉にできないと思います。医療者であるとともに、強い信念や信仰といった支えが必要だと感じました。その中で「支え」の文化を醸成してゆきたいというお話も印象的でした。先生の活動が若い医療者へと広がることとともに、先生とスタッフの皆様のご健康をお祈り申し上げます。


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