ベーチェット病診療ガイドラインとガイドライン案

厚生労働省では、難治性疾患克服研究事業として、ベーチェット病に関する調査研究班(代表 石ヶ坪良明先生)が組織されています。

この研究班の成果として、二つのベーチェット病診療に関するガイドラインガイドライン案が発表され、約2週間前に手元に届きました。その一つは、「腸管ベーチェット病診療ガイドライン平成21年度案〜コンセンサス・ステートメントに基づく」であり、もう一つは「ベーチェット病眼病変診療ガイドライン」です。

今回は「腸管ベーチェット病診療ガイドライン平成21年度案〜コンセンサス・ステートメントに基づく」について、その概略をご紹介したいと思います。

冊子は、本文2ページ、図1ページ、写真2ページからなり、全体で7ページ構成です。

本文に先立ち、「はじめに」には、この冊子が完成された診療指針としてではなく、コンセンサスステートメントに基づく、診療ガイドライン平成21年度案として公開することが述べられています。

診断としては、以下の記載があります。
円形または卵円形の潰瘍を有し、ベーチェット病診断基準の不全型、完全型の条件を満たすもので、急性虫垂炎や感染性腸炎が否定され、クローン病、腸結核、薬剤性腸炎が鑑別が必要とされています。

重症度判定としては、「全身症状の有無、腹部症状の程度、潰瘍の程度や出血の有無、炎症反応、貧血の程度から総合的に判断する。」となっており、やや曖昧な記述となっています。

治療としては、以下の解説があります。

標準的治療
腹痛・下痢・下血などの消化器症状が強い場合、体重1㎏あたり、0.5−1㎎のプレドニゾロンを初期投与量として1−2週間継続し、改善があれば週に5㎎くらい減量し、可能なら中止し、10㎎/日を超えた投与は行わないようにする。維持療法には、メサラジンやサラゾピリンを用い、ステロイド治療に抵抗する場合、ステロイド漸減中にプレドニゾロン換算10㎎/日以上の投与で再燃する場合はアザチオプリン50-100㎎/日などの免疫抑制薬の投与を考慮する。外科的腸切除は、狭窄、穿孔、大量出血をきたす症例で絶対適応で、内科的治療に抵抗する場合は、相対的適応である。


オプション治療
標準的治療に抵抗する場合、副作用のため投与できない場合にはインフリキシマブや顆粒球除去療法を考慮する。
眼病変を有する場合は、眼科医の治療方針と調整すべきである。


以下はガイドライン案とは別に私見です。
私は、こうしたガイドライン作成の動きが示されたことは大変意味のあることと思っています。しかし、様々なところに作成に際する限界やご苦労が見て取れます。通常のガイドラインでは明示される根拠となる論文の提示がないこと、ガイドラインとして引用できるほどのエビデンス・レベルの高い研究がないことを反映しているのかもしれません。また、保険未収載な段階でのガイドラインへの記載やこれを根拠にした法廷闘争などの問題への懸念などです。
しかし、一方で、最も大切なことは、ガイドライン案という名前にせざるを得なかったとしても、エビデンスレベルの高い評価が困難であるからこそ、ベーチェット病診療の自他ともに認める専門家集団が、その時点において純粋に医学的に判断して最も適切な診療を示すことだと思います。このことが、ベーチェット病患者の最も支援になることであり、それ以外のことは本質的には優先順位の低いことではないでしょうか。その導きに向かって、医師も、患者も、国も努力する、そのためのガイドラインになってくれます。その意味で、この「コンセンサスステートメントに基づく診療ガイドライン案」は、簡略化された記載ですが貴重な一歩といえます。
日本故の問題もあることは理解しています。成熟した社会にあって、それぞれの権利意識が確立していますが、意思決定となると難しい問題もあります。
できることなら、患者数が少ないため特定の大学や病院にとどまらない、高いエビデンス・レベルを求めた診療・研究ネットワーク作りが進んでいってほしいと心から思います。
班会議の皆様の活躍を心から祈りたいと思います。


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