HLA B51/B5とベーチェット病発症リスク:患者対照遺伝子関連性研究

Arthritis & Rheumatism 61(10),2009,1287-1296. MATHLIDE DE MENTHON, MICHAEL P LaVALLEY, CARLA MALDINI, et al.
目的:HLA B5またはB51対立遺伝子のベーチェット病発症への遺伝学的な影響をメタアナリシスによる定量化と潜在的な修飾因子を探すこと。
方法:関連する研究は、Pubmed medlineデータベースと手仕事による文献検索で特定した。これらを対象にメタアナリシスのいくつかの手法を用いて解析を行った(詳細は略します)。
結果:1975年から2007年までの独立した78件の研究の合計4800名のベーチェット病患者と16289名の対照者を選択した。HLA B51/B5対立遺伝子保有者の非保有者に対するベーチェット病発症のオッズ比は5.78(95%信頼区間5.00-6.67)で、研究間に中等度の不均一性が認められた。地理的に階層化したサブグループ解析では、オッズ比は5.31-7.20であった。不均一性の原因として、単変量ランダム効果メタ回帰では、男性ベーチェット病患者の占める割合が不均一性の要因として示された。ベーチェット病発症におけるHLA B51/B5の関連度は、世界をいくつかの地理的に分けた場合、32-52%と推定された。
結論:ベーチェット病とHLA B51/B5の関連の強さと、人種の多様性を超えた影響の恒常性は、この対立遺伝子がベーチェット病の発症を規定する根本的、原因的な因子であることをより示している。性差による多様性は、この対立遺伝子のベーチェット病の特性に影響している。

注:HLAはヒトの白血球抗原の種類でありますが、主要組織適合性複合体とも呼ばれ、臓器移植の際の適合性の判断に用いられたり、単にその人の固有の抗原だけでなく、癌や自己免疫の原因となる抗原などもこれに抱え込まれるように発現して、その全体をリンパ球が認識して攻撃する機序も存在することが知られています。ですから、ある人は癌になりにくかったり、癌ワクチンが効いたり、あるいはその逆といった違いがでてくることになります。ベーチェット病ではHLAB51/B5をもっている患者が多くみられることは、1973年日本のOnoらが報告して以来世界中で確認されていました。日本では報告によって若干異なりますが、一般人口の十数%程度がこのHLAを保有していて、決して特別なHLAではありません。本邦の約1800万人がこのタイプに属していることになりますが、ベーチェット病になる人はこのごく一部に過ぎません。男性保有者ではこのリスクが高く、シルクロード病ともいわれるように、性差や地域的な要因があることも知られていました。
この研究は、メタ解析という比較的新しい統計手法を用いて、過去の多数の報告を寄せ集めて、4800名の患者を検討して、これまでの知見を再確認したものといえます。統計学的には、適切に用いられればメタ解析は信頼性の高い手法とされていますが、35年以上前のデータは、現在とは精度も異なることも推定され、若干、過小評価されている可能性もあります。いずれにせよ、この対立遺伝子には疾患になりやすくなる性質や機能と関連していることが推定され、ここからどのようなシグナル伝達で炎症へと進展するのかの解明が待たれますし、遺伝子技術の発展した今日では、他の疾患と違うアプローチで治療開発につながる可能性もあります。
患者が困っている現状をしっかり伝えて、この疾患に興味を持ってくれる研究者を増やすことと、単発的な研究ではなく、組織的、戦略的な研究体制や研究費の援助が必要です。患者が少ない分、声も小さくなりますので、機会あるごとに訴えてゆくことも必要です。

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