ひと時の別れ―生き続ける想い

以前、このブログでもとりあげた患者さんが緩和医療の専門病床に移られて、ほどなく永眠されたとの連絡を担当医から受けていました。しばらくして、奥様から丁重なお手紙をいただきました。
http://d.hatena.ne.jp/sakurasasuke/20090614#1244982292

「・・・・・の病気治療中、先生には本当に最善を尽していただき心から御礼申し上げます。残念ながら去る・月・日この世を去ってしまいましたが、夫は先生には心から感謝し、何度も先生にその旨伝えて欲しいと申しておりました。・・・夫は先生によって苦しい闘病の日々がとても救われておりましたことを有難く存じております。夫は細部についてまで遺書を作っておりました。・・・夫の遺志を生かすべく私もしっかり生きていきたいと思っております。先生が最後まで夫がよりよく生きるためにお力添えくださったお優しさ、私は共に診察室にいて痛い程感じられ、またその後の家での治療へのご配慮、・・病院での緩和ケアが希望通りにできましたことすべて先生のお力添えの賜と存じます。・・・」
これ以上できることは本当になかったのか、薬の力を借りて症状を緩和することはできたとして、家族でもない私が、短い15-20分程度の診察時間の中でどれほどご不安を吸収することができたのだろうか、そもそも死に至る不安の中で宗教家でもない医療者に不安を緩和することなど、どれ程できるのだろう。そんな疑問を絶えず自問しています。
ただ医者というよりも、人として限られた時間の中で、できる限りその方の人生に誠実でありたいと考えてきました。しかしこのことは時に、現実を曖昧にせず、厳しい現実と向かい合っていただかなくてはならないことにもつながります。短い限られた時間の中で、私ごときの微力を生かして、力になれるとしたら、患者さんのご理解と強い意志があってのことのように思えます。
病気になられて私どもの病院を受診されるより、ずっと以前の日付の遺書、奥さまや担当医である私への心遣い、お別れする前日の力強い握手の感触とともに、患者さんのお人柄を思わずにはいられません。
奥様へのお返事に、時間や設備の制限からご不便やご不安をかけてしまったことをお詫びするとともに、短い時間の中で学ばせていただいたのは私の方であること、奥様もご存じではないであろう、転院の前夜の握手のことなど、手紙に書かせていただきました。故人のお人柄からして、遺された奥様やご家族のことを最も気にされていると思います。悲しみから1日も早く立ち直られることお祈りしています。

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