レミケードの特殊型ベーチェットへの適応外使用

インフリキシマブ(商品名レミケード)は現状では眼病変以外には保険適応がありませんし、適応拡大の目処もたっていません。リウマチでは既に広く使われており、近々、使用中の有効性の減弱に対して、より多くの量まで使用できるように改正される予定です。また、新たに強直性脊椎炎や尋常性乾癬への適応の拡大も予定されています。
現在、厚生労働省で薬剤の適応外使用に関するパブリックコメントが募集中されています。このコメントには併せて医学的な根拠を提示することが求められています。私も適応外使用についてコメントを出すべく準備をしていて気付いたのですが、腸型や神経ベーチェットに対するレミケードの質の高いエビデンスがほとんどありません。このブログでも紹介したことがありますように、数例程度の報告で有効性を示した論文は多数あります。しかし、これまでの治療法と比較したり、偽薬との比較をした報告がほとんどないのです。もともと緩解と再燃を繰り返すことが特徴である病気ですし、軽症から重症までさまざまですので、良くなった、良くならない、といった評価だけでは、どの程度有効なのか評価が定まりません。特殊型は重症化することもありますので、無効な偽薬と比較することは倫理的にも難しいこともあります。この場合、現在標準的な他の治療法との比較が行われます。一方で、薬剤の安全性や有効性を科学的に評価する上では、こうした臨床試験はどうしても必要です。
ベーチェット病の様に頻度の低い疾患では、学会や研究班などが中心となって臨床試験を行うことが必要です。これまでのように学会が知識の伝達・共有を目的の中心とするだけではなく、新しい薬剤使用法の臨床試験の実施を学会や研究班の活動の大きな柱としていただきたいと思います。厚生労働省も難病医療対策の一環として、臨床試験を推進する立場を明確にして、臨床試験に対して補助金を出すような支援が必要です。製薬メーカーに依存した臨床治験や我が大学のデータを発表して自分たちの業績にするという発想では、現在の状況を変えてゆくのは難しいでしょう。臨床試験成果に対してより大きな評価を与えることも大切なことと思います。
医師も、患者も、厚生労働省の担当者も、自分たちが社会的に、生物学的に存在できる間に、治療をどれだけ進めることができるか、次の患者により良い治療を提示できるか、協力して取り組まなくてはならない大きな課題です。医師にとっては、個別の業績とは別の本質的なテーマとして、患者にとっては自分が納得できる最良の治療を受ける機会を得るとともに、次の患者がより適切な治療が受けられるようにするために自分の経験を残すことに取り組まなくてはなりません。そのためには、稀な疾患であるほど、患者一人のどんなデータであっても無駄にしたくない、して欲しくないと思います。
臨床試験をガラス張りにして、患者が不安にならないよう第3者に相談でき、患者側も参加できるシステムの構築を願います。


にほんブログ村 病気ブログ ベーチェット病へ
にほんブログ村