ベーチェット病とマトリックスメタロプロテアーゼ

ドキシサイクリンによる腹部動脈瘤の治療:好中球由来成分の減少を介した蛋白分解バランスの改善
J Vasc Surg. 2009 Mar;49(3):741-9. Abdul-Hussien H, Hanemaaijer R, Verheijen JH, van Bockel JH, Geelkerken RH, Lindeman JH.
Department of Vascular Surgery, Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands.

背景:マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)は腹部動脈瘤形成の中心的な役割を果たしていると考えられている。ドキシサイクリンは、テトラサイクリン誘導体であり、試験管内では直接的なMMP-9抑制作用を有し、げっ歯類では効果的に腹部大動脈瘤の形成が抑制されることが知られている。観察された腹部大動脈瘤進展の抑制効果とヒトにおける大動脈壁MMP-9に対するドキシサイクリンの矛盾する効果は、ドキシサイクリンの効果がMMP-9抑制を超えた作用があるか、その効果が容量依存性である可能性がある。
方法:この臨床試験は2週間のドキシサイクリンの低用量(50 mg/日), 中等量(100 mg/日), 高用量(300 mg/日)、無治療群の4群15名の待機的な腹部大動脈瘤治療手術を受けた患者において評価した。ドキシサイクリンのMMPおよびシステイン蛋白分解酵素とそれぞれのインヒビターについて量的PCRウェスタンブロット、免疫捕捉蛋白分解酵素活性解析を用いた。結果:ドキシサイクリンは良く受容され、参加者の脱落はなかった。
結果:ドキシサイクリン治療により、大動脈壁MMP-3とMMP-25メッセンジャーRNAの発現はそれぞれ有意に低下した(P<.045 and P<.014), 好中球のコラーゲン分解酵素やゲラチン分解酵素(MMP-8 and MMP-9)の蛋白レベルを有意に選択的に抑制し (P <.013 and <.004) 、蛋白分解酵素阻害剤であるメタロプロテアーゼ1やシスタチンCの蛋白レベルを増加させた(P < .029)。好中球関連蛋白分解酵素に対する明らかな選択的な抑制効果に関して、我々は大動脈壁の好中球成分への抑制効果を検討したが、実際に免疫組織学的な検査により大動脈壁の好中球成分は75%減少していることが確認された(P <.001)。
結論:ドキシサイクリンの濃度によらず術前の短期間の治療で、恐らくは動脈壁の好中球成分への効果を介して腹部動脈瘤の蛋白分解バランスが改善する。本研究は腹部動脈瘤患者と同様に好中球の流入を含む他の(血管)疾患、例えば川崎病ベーチェット病におけるドキシサイクリンの理論的根拠を示すものである。


注:マトリックスメタロプロテアーゼは、細胞の外側の骨格を維持する蛋白の分解作用を有する物質で、オタマジャクシの尾が吸収する過程で発現する物質として発見されました。現在では、炎症や腫瘍などと様々な関わりが明らかにされています。ドキシサイクリンはテトラサイクリンという抗生物質の仲間で、ニキビなどの治療にも用いられることもありますが、長期投与をすることは多くはありません。動脈瘤そのものは、必ずしもベーチェット病とつながるものではありませんが、血管ベーチェットでは動脈瘤を発症することもあります。ベーチェット病における血管病変についてもマトリックスメタロプロテアーゼが関わっていると推定されますが、動脈瘤以外の血管炎にどの程度関わり、治療のターゲットとなりうるかは今後の検討が必要です。ベーチェット病では血清中のMMP-2やMMP-9が上昇しているという報告1)や同じテトラサイクリン系抗生物質であるミノサイクリンがベーチェット病で有効であったとする報告2)もあります。関節リウマチでのミノサイクリンは有効性は認められています。

1)Pay S, Abbasov T, Erdem H, Musabak U, Simsek I, Pekel A, Akdogan A, Sengul A, Dinc A.Serum MMP-2 and MMP-9 in patients with Behcet's disease: do their higher levels correlate to vasculo-Behcet's disease associated with aneurysm formation? Clin Exp Rheumatol. 2007 Jul-Aug;25(4 Suppl 45):S70-5.Division of Rheumatology, Gulhane Military School of Medicine, Ankara, Turkey.

2)Kaneko F, Oyama N, Nishibu A. Yonsei Med J. 1997 Dec;38(6):444-54. Streptococcal infection in the pathogenesis of Behcet's disease and clinical effects of minocycline on the disease symptoms. Department of Dermatology, Fukushima Medical College, Japan.

2009年6月28日追記
ベーチェット病とは直接は関係しませんが、動脈瘤切除2週間前からドキシサイクリンを投与し、切除後の動脈壁の検討から、好中球の減少とIL-6,IL-8などの発現の低下を報告した論文が2009年4月のCirculation電子版に報告されています。
Clinical Trial of Doxycycline for Matrix Metalloproteinase-9 Inhibition in Patients With an Abdominal Aneurysm. Doxycycline Selectively Depletes Aortic Wall Neutrophils and Cytotoxic T Cells. Jan H.N. Lindeman, Hazem Abdul-Hussien, J. Hajo van Bockel, Ron Wolterbeek and Robert Kleemann published online Apr 13, 2009; Circulation


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