EULARが推奨するベーチェット病診療

Ann Rheum Dis 2008 Dec;67;1656-1662; originally published online 31 Jan 2008
G Hatemi,1 A Silman,2 D Bang,3 B Bodaghi,4 A M Chamberlain,5 A Gul,6 M H Houman,7 I Ko¨tter,8 I Olivieri,9 C Salvarani,10 P P Sfikakis,11 A Siva,12 M R Stanford,13 N Stu¨biger,14 S Yurdakul,1 H Yazici1

1 Department of InternalMedicine, Division ofRheumatology, Cerrahpasa Medical School, Istanbul University, Istanbul, Turkey;2 Epidemiology Unit, Manchester University, Manchester, UK;3 Department of Dermatology,Yonsei University, Seoul, South Korea; 4 Department of Ophthalmology, University of Pierre et Marie Curie, Paris,France; 5 Academic Department of Rehabilitation Medicine,University of Leeds, Leeds, UK;6 Department of InternalMedicine, Division of Rheumatology, Istanbul Medical School, Istanbul University, Istanbul, Turkey; 7 Department of Internal Medicine, University Hospital of la Rabta, Tunis,Tunisia; 8 Department of Rheumatology, University Hospital, Tu¨bingen, Germany;9 Department of Rheumatology, San Carlo Hospital, Potenza;10 Department of Rheumatology, Arcispedale S. Maria Nuova, Reggio Emilia, Italy; 11 First Department of Propedeutic and Internal Medicine, Athens University, Athens, Greece; 12 Department of Neurology,Istanbul University, Istanbul,Turkey; 13 Department of Academic Ophthalmology, King’s College, London, UK;14 Department of Ophthalmology, University Hospital, Tubingen, Germany

European League Against Rheumatism (EULAR) は、ヨーロッパを主体とするリウマチ関連疾患の専門医が集まり、根拠に基づいた推奨される診療方針を示した。参加した医師は、9名のリウマチ専門医、3名の眼科医、1名の内科医、1名の皮膚科医で構成されている。1966年から2006年12月まで、MEDLINEおよびCochrane Library databasesを利用し、システマティックな文献検索を行い、40の初期声明案を作成し、この中から投票により最終的に9つの推奨事項を選択した。推奨度の強さは、根拠のレベルと専門家の意見によって決定した。結果的に眼、皮膚、粘膜、関節については主に根拠に基づいたが、血管、神経、消化管病変については、専門家の意見と根拠としては(厳密さのレベルが低い)非盲検試験からの非比較試験や観察研究に大きく基づくものとなった。適切にデザインされた臨床試験が必要であることは明らかである。

以下に9つの推奨事項の抜粋・要約を示す。

1 ベーチェット病による後眼部に炎症性病変を有するすべての患者では、アザチオプリンと全身的なコルチコステロイドの投与が行われるべきである。(注:日本ではベーチェット病の眼病変にコルチコステロイドは禁忌とされています。)
2 10/10評価法で2段階以上の視力低下か、網膜病変のいずれかによって定義される重症眼病変を有する患者では、シクロスポリンAまたはインフリキシマブを、アザチオプリンとコルチコステロイドに併用して用いることが推奨される;代わりにインターフェロンαを単独、あるいはコルチコステロイドと併用することもできる。
3 大血管病変の診療において基準とするに足る根拠はない。ベーチェット病における急性の深部静脈血栓症の診療では、免疫抑制剤、例えばコルチコステロイド、アザチオプリン、シクロフォスファマイド、シクロスポリンAが推奨される。肺および末梢動脈瘤の診療にはシクロフォスファマイド、およびコルチコステロイドが推奨される。
4 同様に、深部静脈血栓症診療における抗凝固薬、抗血小板薬、抗線溶系薬、およびベーチェット病の動脈病変に対する抗凝固療法について、非比較研究からの経験から有効とする根拠や比較試験に基づく根拠はない。
5 消化器病変について、根拠に基づいた推奨される治療法はない。スルファサラジン、コルチコステロイド、アザチオプリン、TNFα阻害薬、およびサリドマイド(日本ではベ-チェット病としては未承認)などが、緊急時を除き、手術前にまず試みられるべきである。
6 関節炎は、大半の患者でコルヒチンによって治療可能である。
7 中枢神経病変の診療においては、基準として定めるだけの比較試験のデータがない。実質病変に対して試みられる薬剤としては、コルチコステロイド、インターフェロンα、アザチオプリン、サイクロフォスファマイド、メソトレキセート、およびTNFα阻害薬がある。硬膜静脈洞血栓症に対してはコルチコステロイドが推奨される。
8 中枢神経病変を有するベーチェット病患者には、シクロスポリンAは眼内病変に必要とされる場合を除いて使用するべきではない。
9 皮膚粘膜病変を治療するかの決定は、医師、患者による重症さの認識に基づく。また、皮膚粘膜病変は、存在する優先する病変に基づいて治療される。孤立した口腔、陰部病変については、局所的な治療(ステロイドの塗布など)が最初に試みられるべきである。挫瘡様病変については、通常は美容的問題のみで、尋常性挫瘡(にきび)対するのと同様の対応で十分である。結節性紅斑が優位な場合には、コルヒチンが使われる。下腿潰瘍は異なる原因の可能性もあり、原因に従って治療は計画されるべきである。難治例では、アザチオプリン、インターフェロンα、TNFα阻害剤を考慮する。

訳者注:ヨーロッパを中心とした診療ガイドラインの報告です。診療ガイドラインというのは、それでなければならないというものではなく、目安としてお考えいただくのが良いと思います。内容的には、これまでの報告を取りまとめたもので、目新しいものはありません。全体を通じて言えるのは、1)根拠として質の高い研究が少ない、2)日本と異なり、コルチコステロイドの敷居が低い(優先順位が高い)、3)現在はTNFα阻害剤の使用が広がりつつあり、この委員会が検討した時点での見解と、実臨床の場では若干のずれや違いが生じている可能性がある、ことなどに留意する必要があります。1)については、患者数が少なく、医療機関に分散してしまうとデータが得られにくいこと、重症や緊急性のある病態では、ある程度確実な効果が確認される段階まできていないと、倫理的に問題があるため臨床試験を行いにくいなどがその原因として考えられます。2)ステロイドの有効性は良く知られていますが、少量長期投与については議論のあるところです。以前に出されたEULARのTNFα阻害薬の使用開始の目途の一つとして、プレドニゾロン7.5mg/日以上必要なことが挙げられていました。副作用の点では漸減、中止が望ましく、日本の膠原病専門医では可能な限りステロイドの使用を避ける方向にあるようです。しかし、これも個々の病状やステロイドの量によって異なり、レミケードの長期維持投与と、ステロイドの少量長期投与が相対的な有効性・リスクについて明確なデータはありません。3)については、インターフェロンαやTNF阻害剤は高価な薬であり、副作用にも未知数の部分もあり、社会制度的にも、医学的にも慎重な見解もあります。個人的な見解ですが、肝炎に対するインターフェロンや関節リウマチに対するTNFα阻害薬などの使用状況から考えれば、ベーチェット病でも既に認可されている眼病変以外の特殊型へも選択肢として承認されるべきと考えます。


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