ドラッグ・ラグ

ベーチェット病の眼病変に対して、インフリキシマブが承認されたのは2007年1月26日、関係者のご努力に陳情を重ねて4年の歳月を要しています。これは画期的なできごとでしたが、今のところ血管・神経・腸型ベーチェットに関しては認可される予定はたっていません。

海外では、英語を共通語として国の垣根を越えた臨床試験も行われ、稀な疾患であっても患者データを収集し、薬の有効性や安全性を評価した上で認可を受けるシステムが存在します。一方、日本では、稀な疾患になればなるほど患者さんを集めることが困難な上に、患者さん側も治験への抵抗感から参加者が少ないこと、稀な疾患では開発コストに見合う利益を上げにくいため製薬会社も及び腰なこと、更に審査に関わるマンパワーも不足している、などの理由で、欧米で有効性が示されながらわが国ではなかなか申請や認可がされないという状況が続いています。これがドラック・ラグと呼ばれています。

かつてイレッサという肺癌治療薬が、我が国で世界に先駆けて認可され、その後、約2%に死亡例が出たことがありました。その後欧米で有効性に差がないとの報告がなされ、一旦承認したアメリカでは使用禁止となり、欧州での申請は取り下げになったと聞いています。EGFR遺伝子変異と治療効果との相関が判明し、東洋人、非喫煙者で有効性が高いとされています。民族性の違いが、薬物代謝や有効性にどの程度関わるのか、欧米でのデータを日本人に(あるいは逆に日本のデータを海外に)適用しようとする場合には問題になります。また、ロフェコキシブという消炎鎮痛剤は、胃腸障害が少ないCOX-2選択性阻害薬であり、心臓への有害事象が疑われたにもかかわらずメーカーはこの事実を薄め、欧米では承認後、3倍の頻度で心臓合併症を発症し、自主回収になりました。権威ある学術雑誌への投稿もメーカーとの独立性に疑問が生じるなど、産学間での臨床研究の在り方にも問題を投げかける事例となりました。これら2事例からですら、データの揺らぎやデータの信頼性など、薬剤審査には検討すべきさまざまな要素があることが分かります。

我が国の現状を改善するためには、申請のもととなるデータを得るために、質の高い臨床試験ができる環境を整備すること、これには製薬メーカーへの依存度も減らすことが必要です。特定疾患では患者数も少ないため、難治性疾患研究班などが中心となって、疾患ごとに全国的な拠点整備や臨床研究を設定することも検討されるべきでしょう。科学研究費などの予算の多施設臨床試験への優先的な配分による政策的な誘導も必要です。さらに提出されたデータの日本の審査機関である医薬品医療機器総合機構マンパワーを増大させること、アメリカの審査機関であるFDAの1割ともいわれるスタッフでは限界は明らかです。また、患者側も新薬の治験に関して、自身が理解し、判断をすることが必要です。判断の助けとなる情報開示・情報交換ネットワークも極めて重要です。


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