ベーチェット病に関わる稀な遺伝子変異の探索

Targeted resequencing implicates the familial Mediterranean fever gene MEFV and the toll-like receptor 4 gene TLR4 in Behçet disease1.
Yohei Kirino, Qing Zhou, Yoshiaki Ishigatsubo,et al/
PNAS 2013 110 (20) 8134-8139; published ahead of print April 30, 2013, doi:10.1073/pnas.1306352110

このようなタイトルで記事を書くと、ベーチェット病が遺伝する病気と誤解されそうですが、現在の医学研究の主流は、どのような病気であっても病気になりやすい遺伝子の検出とその役割の解明にあります。そして、その先には新しい治療法の開発があります。
この論文の筆頭著者は、昨年の横浜で行われた国際ベーチェット病会議でも発表された気鋭の研究者です。以前に相次いで報告されたベーチェット病にかかりやすい遺伝子変異の報告を受けて、新しい統計手法を導入してより稀な遺伝子変異を解明し、5月の有力学術誌PNASに報告しています。

以下、その要約です。

GWAS(ジーバス)と呼ばれる遺伝子解析研究の手法は、その疾患に関連して高頻度に出現する遺伝子の変異を特定する有力な手段であるが、稀な遺伝子の検出には適さない。
今回GWASの結果から見つかった10遺伝子 (IL10, IL23R, CCR1, STAT4, KLRK1, KLRC1, KLRC2, KLRC3, KLRC4, and ERAP1)および 自然免疫(生まれもった免疫のことで、生後に獲得された免疫と区別される)にかかわる11遺伝子 (IL1B, IL1R1, IL1RN, NLRP3, MEFV, TNFRSF1A, PSTPIP1, CASP1, PYCARD, NOD2, and TLR4) のベーチェット病への関わりを調査した。2461名のベーチェット病患者と2458名の健常人で、稀な、あるいは低頻度の非同義遺伝子変異について疾患への関連を調査した。GWASで見つかった一つの遺伝子について、3つの検討を行い、少なくとも一つの検討が統計学的に有意であるという厳密な基準のもとで検討を行い、 IL23R (P = 6.9 × 10−5)と自然免疫に関わるTLR4 (P = 8.0 × 10−4)がベーチェット病に関連していた。加えて、NOD2変異は名目上3つの検討において有意(P = 0.0063–0.045)であった。さらに、家族性地中海熱の劣性遺伝子と知られている家族性地中海熱遺伝子Met694Val変異をもつことは, トルコ人においてベーチェット病のリスクと関連していた(OR, 2.65; P = 1.8 × 10−12)。
疾患に関連したMEFVやTLR4における非同義遺伝子変異は、ベーチェット病の病態における自然免疫と細菌に対する感受性を介したメカニズムを示唆している。

注)本文中では、こうした遺伝子変異の頻度が国によって異なること、また、クローン病などと比較すると、同様に発病方向へ働くものと、逆に抑制的に働くものなど、様々であることが示されています。一般的には、病気をおこすメカニズムが単純で、遺伝子変異が核心に近いほど、より高頻度で、人種差もなく検出され、逆に、病因が複雑であったり、核心から離れるにつれて、他の要因の影響も受けて(介して)、検出頻度は下がるとも考えられます。潰瘍性大腸炎クローン病、そしてベーチェット病でも口腔内や腸管内の微生物に対する生体の反応が病気のメカニズムとして注目されています。昔から注目されてきた関わりではありますが、分子生物学的に確認が進んでいるということだと思います。一度、著者にこれまでの総括と今後の展望を伺ってみたいと思いました。

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