理解、共有

80歳台の患者さんが癌の診断のもと紹介されてきました。

ご高齢であるが故に、前医では、ご家族との相談の中でご本人には病名や予後は知らせないことになったようです。丁寧に説明はされていたようですが、繰り返す症状と治療の反復にいらだちはつのり、紹介されてきました。

お話をしていると、ご高齢ではあるものの、正確にこちらのお話も理解され、治療法があるのなら積極的に治療を受けたいという姿勢が伝わってきます。

さて、どうしたものか。

このまま病気についての理解が得られない限りは、病院をいくら変えても、納得した医療にはつながらないと思われました。ご家族とご本人に、病名を含めた病状の理解が不可欠であることをお話し、了解のもとに前医で行われた医療の内容を外来で説明しました。まったく淡々と病状の説明を聞かれて、「もうここまで生きてきたけれど、あとできれば数年は生きられたら」ともおっしゃられました。

客観的な病状の理解の助けとするとともに、ご高齢であるなど、一般的なガイドラインに示された方針以外にも考慮しなければならないこともあるため、東京の専門病院にセカンド・オピニオンに行くことをお勧めしました。ご家族は、患者さんが高齢でもあり、遠く離れた病院まで受診するのを少しためらわれた様子でしたが、敢えてお勧めしました。実際、セカンド・オピニオンのための受診に積極的だったのは患者さんご本人の方でした。

1ヶ月ほどして専門病院の受診結果をもって再診された際には、病状としては手術適応はあるようであり、通常の手術死亡率1%に加えて、高齢ゆえのリスクがあることなど説明を受けてこられました。

「治療についてお考えはありますか?」とお尋ねすると、「いろいろな社会的な役を引き受けてきたけれど、ここですべて他の人に譲ってきたので、地域の中であと2年くらい生きてゆけたら」とお話しされました。

相談の結果、手術はせず、最も御自宅に近い最初にご紹介いただいた病院に今後の治療をお願いすることになりました。

ご紹介いただいてからの経過を書いた逆紹介状を渡しながら、病名をお伝えすることを希望されなかったご家族も、共通の理解のない中で、いろいろと配慮して治療を進めていた病院も、「ほんとうに○○さんのことを大切に考えていたからなのですよ」とお話しすると、「わかっています」と柔らかな、そして、しっかりした表情でお話しされました。

この3回の外来診察の間にしたことは、1回の血液検査と2通の紹介状を書いたことだけでしたが、患者さんと医療の溝を埋めるためには必要なステップだったと思っています。

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