夏山診療所

日本の夏山では、登山者の安全を守るため診療所が開設されています。
今夏、健康増進休暇を含めて数日の休みはとれることになっているのですが、実際に仕事が入っていないのは2日だけで、子供を連れて一泊二日ではありましたが山岳診療所に助っ人として行ってきました。

登山に要する時間は片道約6時間、標高約3000メートル、急な登りが続くコースです。昔より娯楽が増えたこともあって、登山客は減少傾向にありますが、私が学生の頃は一晩に3000人の登山客を迎えたこともありました。来る人は拒めないのが山小屋の原則で、嵐になれば階段の一段一段に一人が寝たり、畳一畳に三人が横向きで寝て、夜トイレに立つと寝る場所に戻れないこともありました。

診療所では、最終的には責任のとれる医師が判断、診療するのですが、診療所の設営・管理には学生のサポートが不可欠です。診療費はすべて無料で、学生も医師も、交通費を含めて全くの自腹です。山小屋での食事・診療所の場所は山小屋の協力を得て提供していただいています。製薬メーカーからも医薬品のサポートを得ています。

山では食料は貴重品で、水すら簡単には手に入りません。山小屋とも共存を図る必要があり、学生や医師の滞在が重なると、学生の一部は自主的に自炊をすることもあります。酸素の薄い山のテント場で、パスタやご飯を炊いて過ごします。食器は洗う水を節約するために、トイレットペーパーで拭いてから洗います。

便利、快適に慣れた今でも、大きな共通の目標のために、10代、20代前半の若者がこうした価値観を綿々と紡いでくれていることが何よりうれしかった。わがままと知りつつ子供を連れて行ったのは、私一人では体に不安があったこともありますが、私が30年以上も参加した山岳診療に関わる人たちのこうした姿を是非見せておきたかったからです。

自分がたどり着けないだけでなく、逆に迷惑をかけてしまうのではないか、子供や診療所に自分のわがままを押し付けていないかと、現地で登山靴を履く直前まで迷いました。ただ、今年を逃すと、恐らくこうした機会は二度とないので敢えて踏み切りました。

お世話になった診療所の人たち、山小屋の関係者、そしてサポートしてくれた家内や、言葉にはださないけれど私の意図を酌んでくれた子供、そして、大変ではあったけれど何とか無事に帰ってこれた自分の体に、本当にありがとう。