人の命は地球より重い

先日、父が入院しました。大きく80歳を超えてはいますが、これまでとても元気で過ごしていました。
私の勤務する病院は地域の中核病院で、私はその中間管理職にあります。医療費削減が求められる今、診療報酬は削減され、病院としては収入を確保し、雇用を安定させるために、平均在院日数を短縮した上で、病床の稼働率が92-95%を超えることが日常です。まだまだ余裕があるようにも思えますが、小児科や産婦人科、精神科などのベッドは融通性が低いことや土日、休日の予定入院は患者さんにはメリットが少ないことを考えると、常にほぼ満床の状態です。この中で、中核病院では、平日の入院はままならず、時間外なら病院中のどこか空いているベッドに入院はできるという状態が日常化しています。療養や緩和医療が必要なら、そうした病院へ紹介というのが大きな流れになっています。しかし、患者さんがこうした病状を最初から提示して来院されるわけではありません。これまで外来で診療してきた患者さんでも、状況によっては専門病院へ紹介や転院をお願いせざるを得ない状況があります。無責任な出版社による名医や病院の紹介や行政による誘導は、目の前の患者さんとの間に大きな障害をきたしています。私たちは、医療面では最先端を目指し、実践しているつもりですが、全く余裕がなくなっています。
幸い父は数日入院して診療していただくことができましたが、タイミングによっては難しかっただろうと思えます。医療従事者としては、医療過誤などの問題だけでなく、こうした患者さんに十分対応できる体制が作れないことに大きなストレスを感じています。
最善の医療を提供しようという意識を持ちながら、病気に悩む患者さんを目の前にしても、対応できない今のシステムの中で、さらに疲弊しているように思います。
かつて「人の命は地球より重い」と言われたことがあります。時代や環境の変化はありますが、私は、このことはいつの時代も変わらない原則ではないかと思っています。宗教や経済、政治システムなど、様々な状況を受け入れたうえで、それでも敢えて「人の命は地球より重い」と言い、その原則を若い人に伝えてゆきたいと思います。

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