低用量ナルトレキソン

医師としては根拠に基づいた治療をお勧めするのが原則です。でも明確な治る治療法のない場合には、医師であってもさまざまな可能性を探しています。

丸山ワクチン、キトサン、フコダイン、粉ミルク、紅茶キノコ・・・・、などなど私が医師になってからでもたくさんの申し出を受けました。こうしたものの中には、成分も不明で、不治の病に効くと宣伝して、しかも高額な価格を提示しているものがあります。藁をもすがる患者の思いに便乗したもので、価格が高いほど売れると聞いたこともあります。業者に対しては腹立たしく思うこともありました。患者さんの切実な申し出を受けて、それでも安全性が不明な場合には、申し出をお断りしたこともありましたが、問題がなければ私はお受けするようにしていました。やるべき治療をすべて行ったという、患者さんやご家族の思いを大切にしたいからにほかなりません。

そんな自分が病気になった時、ステロイドの長期投与が選択に上がった時に、他に治療法はないのかと、さまざまな文献を調べました。教科書やガイドラインに載るものは、医学的にある程度検討されたものですから、効果や副作用、限界もある程度はわかっています。その時点で、そうした標準的治療には達していないものの、検討されている治療法はないかと・・。その時に出会ったものの一つが、低用量ナルトレキソンでした。治療の開発者が記載した効果のある疾患は多数で、癌から自己免疫性疾患まで含まれ、その中にベーチェットの病名も含まれていました。

低用量ナルトレキソンは多発性硬化症クローン病で有効性が報告され、アメリカではニュースで放送されたこともありますが、薬理作用の解明や有効性の医学的な根拠はまだまだ不十分と言わざるを得ません。本来薬物中毒の治療などの精神科領域で使われる薬で、常用量の1/20近い低容量で用いるもので副作用の頻度は低いことは報告されていましたが、日本では発売されておらず、個人輸入の必要がありました。迷いましたがインターネットで購入し、自己責任で試してみました。日本では未承認の医薬品であり、医学的な明確な根拠が確立されていない治療を受けることに医師として正直後ろめたい思いを感じながらの治療でした。

定期的な血液検査で効果や副作用を確認しながらの治療でしたが、結果的に私の場合、自覚症状、検査所見には効果も、副作用も認められず、3か月で中止しました。
今ではレミケードなど選択肢が広がりましたが、振り返ってみると、治療が順調でない時に自分なりに情報を集め、私は評価できる環境にあったので、自己責任でやってみようという思いでした。一般的には、こうした治療には慎重であるべきだと考えています。今、この治療についてどうかと聞かれれば、少なくともベーチェットについてはお勧めできる治療ではありませんとお答えすることになります。より多数の患者さんで客観的に評価する必要があるのは言うまでもありません。

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