ベーチェット病患者におけるTNF遺伝子多型ーメタ解析の結果


Archives of medical research 41,2010,142-146. Zahi Touma,Chantal Farrha, Ayad Hamdan, et al.

背景と目的:腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子の、-308,-238,-863,-857,-1031の部位での多型は、さまざまな人種においてベーチェット病との関連を研究されてきた。このメタ解析の目的は、TNF遺伝子の-308,-238,-863,-857,-1031での多型とベーチェット病との関連を調査することである。
方法:2009年9月31日までに英文で発表された比較試験を各種データベースを用いて文献的に調査を行い、TNFαプロモーターの遺伝子多型とベーチェット病との関連を評価した。(中略)
結果:文献調査により13本の研究が採用された。最終的に、-1301C(OR=1.35,95%CI=1.09-1.68),-238A(OR=1.51,95%CI=1.12-2.04),-857T(OR=0.76,95%CI=0.58-0.98)の部位の遺伝子多型はベーチェット病と有意な相関があった。
結論:TNFプロモーター領域の-1301C,-238A,-857Tの各遺伝子多型は、さまざまな人種においてベーチェット病と有意な相関があった。


以下はsakurasasukeの注釈です:
TNF(腫瘍壊死因子)は、炎症を起こす信号伝達経路の重要な役割を担っており、これに対する抗体はとしてレミケード、ヒューミラなどがあり、TNFの受容体に対する阻害剤エンブレルが市販され、ベーチェット病だけでなく、リウマチなどさまざまな病気の治療に使われるようになりました。
TNFは炎症に大きく関わっていますので、こうした病気になる人は、きっとこのTNFに関わる遺伝子に変化があって病気になるのではないか、という素朴な疑問が生じてきます。この論文は、メタ解析という手法をとって、これまでの報告を集計して、統計学的に評価をしたものです。
結果的には、TNFプロモーターの-1301C,-238Aの変異は、病気の形成に促進的に(発病しやすいように)働き、-857Tは抑制的に(発病しにくいように)働いていることが示唆されました。

病気の原因は単一ではなく、さまざまな要因が組み合わさって発病に至ると考えられています。その病気にかかりやすくなる要素とかかりにくい要素などがあります。どの要素とも、関わりへのインパクトも異なっていて、これらを多変量解析や連鎖解析などの統計学的手法を用いて関わりを探ってゆきます。たった一つのアミノ酸の入れ違いの積み重ねをもとにヒト一人ひとりの個性差が作られているのですが、その組み合わせや積み重ねが、同時に病気へのかかりやすさや重症度をある程度決めています。ある程度、というのは、個人のもつ素因の他に、ストレスや睡眠不足、肥満、食事などの外的影響も少なからず影響しているからです。

遺伝子多型の論文は、ベーチェットに限らず、ありふれた高血圧や糖尿病などについても多数あります。どうか遺伝子という言葉に惑わされず、誰もの個性の源とお考えいただいた方が正確だと思います。病気につながる患者のもつ背景や素因の1つとしては重要ですが、これですべてが解決されるわけではありません。現実の治療の研究は、炎症のシグナル伝達をどこかでブロックする分子標的薬の開発という形が現在の主流のようです。

にほんブログ村 病気ブログ ベーチェット病へ
にほんブログ村