妊娠中の消化器疾患(炎症性腸疾患)のスペクトラム(総説)から、女性における薬剤の影響についての抜粋

From Nature Clinical Practice Gastroenterology & Hepatology,2008 Aug;5(8):430-43.
Jutta Keller, MD; Dorothea Frederking, MD; Peter Layer, MD

本情報を参考にされる際には、必ずカテゴリー「医学情報を解釈する上での注意点」をお読みの上、最終的な判断は自身の責任において行ってください。

治療
妊娠中の適切な疾病コントロールの維持は母体と胎児の健康に重要である。
このゴールを得るために消化器内科医と産科医による集学的なアプローチが必要である。炎症性腸疾患の治療に用いられる薬の多くは、催奇形性のあるメソトレキセートとサリドマイド(ともにFDA カテゴリー Xに分類される)を除くと、妊娠中における危険性の低い炎症性腸疾患治療薬と考えられる。

母となるであろう人の治療
炎症性腸疾患を有する母になるであろう人の治療には、アミノサリチル酸製剤(サラゾピリンなど、ただし一部のものは除く)は、低危険度薬(FDA カテゴリーB)に分類されている。サラゾピリンなどを服用する際には、サラゾピリンによる潜在的葉酸拮抗作用に関する懸念から、女性は妊娠期間を通じて、1日に2回、葉酸1mgを服用することが推奨される。メサラミンには催奇形性はないが、早産や低出生体重、死産の頻度を増加させる。 しかし、これらの好ましくない妊娠の経過は恐らくは、薬への曝露ではなく、母体の疾患自体によるものと考えられる。
副腎皮質ステロイドホルモン(FDA カテゴリーC)、特に妊娠第一三半期(妊娠期間を3等分した第一期)に用いた場合には、胎児発育への小さな危険性と関連している。一つのメタアナリシス(注:いくつかの研究結果を合わせて検討する研究手法)では、妊娠中に副腎皮質ステロイドを用いた場合、主要な先天奇形はわずかに増加させたにすぎないが、 口唇裂の頻度は3倍であったと報告している。それゆえ、母になる人には副腎皮質ステロイドの危険性と有効性を知らせるべきである。短時間作用性のプレドニゾンプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどは、長時間作用性の薬剤に比べて好ましい、これは短時間作用性の薬剤は、胎盤中の酵素により代謝され、胎児は母体の約10%しか曝露されないからである。ブデソナイドについては、妊娠中の安全性に関するデータはないが、大きな臨床研究からは、胎児の有害な結果には関連にしていないことが示された。

免疫調整剤であるアザチオプリン(イムランなど)と6メルカプトプリンはFDA カテゴリーDに分類されている。動物実験では、これらの薬剤は催奇形性が報告されているが、炎症性腸疾患や移植患者におけるいくつかの症例報告では、先天性異常の記載はない。 2007年に発表されたデンマークの全国的調査によると、これら薬剤に曝露された妊婦の出生児では、曝露されなかったクローン病患者の出生児に比べて、先天異常の罹患率が高かった。(15.4% に対して 5.7%).しかし、実際にこれらの薬剤に曝露されたのは26名の女性に過ぎず、先天性異常には、重症から軽微なもの、非特異的なものまで含まれ、統計学的な有意差には至らなかった。 したがって、これらの薬剤は、服用による潜在的な危険性よりも、より重大な転機をもたらしうる妊娠中の再燃を予防するために、しばしば継続される。 さらに、免疫調整剤を用いた治療は、重症女性患者を受胎可能となるまで健康状態を改善するために必要かもしれない。 それにもかかわらず、治療の利点と危険性は、可能なら細部に至るまで、母となる人と、例え受胎が計画される前であっても話し合うことが必要である。

生物学的製剤、インフリキシマブ、アダリムマブはFDA カテゴリーBに分類されている。妊娠中のアダリムマブの使用に関してはほとんど情報がないが、利用可能な根拠は、インフリキシマブは危険度の低い治療であることを示している。実際、クローン病を有し、以前にインフリキシマブの曝露があった36名の妊婦では、胎児の奇形はなく、流産や新生児合併症の頻度は、インフリキシマブへの曝露のない妊婦と同様であった。それにもかかわらず、インフリキシマブは胎盤を通過し、腫瘍壊死因子に対する抗体の胎児の免疫システムに対する長期間の影響は知られていない。これらの治療の潜在的な利点が、危険性を上回るか詳細に患者と相談することが必要である。
2006年のヨーロッパコンセンサス会議において、抗TNF抗体を用いた治療は、妊娠第三三半期には避けることが推奨されている。現状では、抗TNF薬剤の妊娠中の使用を完全に避けるべきかどうかは、コンセンサスは得られていない(特にアダリムマブについては)、しかし、抗TNF抗体はしばしば第三三半期の初期まではしばしば投与され、もし母親が再燃なく減量に耐えることができるのであれば、その後投与を控える。

注:2008年8月の医学雑誌に掲載された総説からの抜粋です。ベーチェットでの妊娠への薬剤の影響についての報告は限られますが、絶対的に欧米での患者数が多いクローン病などでの報告が参考になります。この論文以後も少数ですが、インフリキシマブなどの妊娠への影響に関する報告があります。多くは、影響は軽微であるという報告のようですが、現在の抗TNF製剤の使用状況からみると、今後、より多数例で、より長期での報告が出てくると思われます。尚。論文中には記載はありませんが、コルヒチンはカテゴリーDに分類されて、日本の添付文書上は妊婦、および妊娠している可能性がある人への投与は認められていません。男性側の精子形成異常の記載は多くみられますが、女性側への影響の根拠となる報告は多くはありません。実際、コルヒチンが第一選択薬とされる家族性地中海熱では、妊娠中も継続して服用しても一般人口における胎児の先天異常の発生率と有意差がなかったとの報告や羊水診断の必要性についても意見が分かれているようです。こうした異なる結果がでる背景には、危険性の程度に見合った影響を評価するのに十分な質と症例数を有する研究がないということを表しているのかもしれません。

アメリカの食品薬品局(FDA)では、妊娠への薬の影響を以下のように区分している。
カテゴリーA:比較試験で胎児への危険がないことが分かっている。
カテゴリーB:動物実験では危険性があるが、ヒトには危険性がないことが確認されていない、あるいは、動物には危険性がないが、ヒトでは危険性の評価が行われていないもの
カテゴリーC:動物実験では有害事象が確認されており、ヒトでの危険性は確認されていないか、適切な評価がないもので、胎児への有益性が危険性を上回る場合にのみ使えるもの
カテゴリーD:ヒト胎児への危険性があるもの、有益性が危険性を上回る場合にのみ使用する
カテゴリーX:妊娠中に禁忌なもの


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