ベーチェット病:アメリカ国立眼研究所における治療結果30年の比較

Behçet's disease: comparing 3 decades of treatment response at the National Eye Institute.
Can J Ophthalmol. 2008 Aug;43(4):468-72

Kump LI, Moeller KL, Reed GF, Kurup SK, Nussenblatt RB, Levy-Clarke GA.
National Eye Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA.

この研究のゴールは、ベーチェット病の眼病変の治療に対する反応を、1990年代、1980年代、1960年代の各年代について解析することである。

方法:アメリカ国立眼研究所の1962年から2004年におけるベーチェット病によるぶどう膜炎を有する120名の病歴記録を調査した。

結果:患者を観察期間ごとに、1962年から1972年(45名/89眼)、1983年から1992年(26名/52眼)、1992年から2004年(49名/94眼)までの3群に分け、視力指標としては、Snellen visual acuityという指標をlogMAR値に変換し、炎症は4段階で評価した。統計学的解析では、logMAR値の平均は、年代が新しくなる毎に低下した。1990年代における平均視力は、それ以前の年代に比べて有意に良好であった。平均炎症スコアは有意に1960年代が、それ以後の年代に比べて高かった。

治療としては、ステロイドの全身投与のみによる治療は、1960年代には69%を占めたのに対し、1990年代には16%に減少していた。1990年代には、シクロスポリン(55%)、アザチオプリン(20%)、メソトレキサート(16%)などの免疫抑制薬が併用されるとともに、インフリキシマブなどの標的治療が導入された。

著者らの解釈:ベーチェット病は、重篤で、失明に至る疾患であるが、1960年代から1990年代に経過するにつれて、臨床的な転帰に明らかな改善の傾向が認められた。このことは、ステロイドと併用する、新しい、より有効な薬物と標的治療の導入によると考えている。


訳者注
アメリカにおけるベーチェット病の眼病変の時代による変化を検討した報告です。異なる治療法を、将来に向かって、一定の期間で評価する研究とは異なり、時代ごとに、後ろ向きにどうだったかを検討しています。このため対象者や観察期間などにもばらつきがありますが、ベーチェット病の眼病変の時代的変遷を知ることができます。病像の変化には、治療法の進歩に加えて、栄養、環境なども複雑に関わっていると考えられています。
ベーチェット病は今でも失明に至ることがある疾患ですが、ステロイド単独投与が多かった時代とは、大きく変わってきていることを示しています。日本では、眼病変に対してはステロイドは禁忌ということになっていますが、日本以外の国では異なります。ステロイドの長期投与は勧められませんが、免疫抑制薬に少量のステロイドを併用して維持することは、他の膠原病を含めてしばしば行われています。インフリキシマブ(レミケード)の登場により、今後の標準的治療も変わるものと思われます。
ベーチェット病は患者数が少ないこともあり、いくつかの施設を除けば、多くの医療機関では少数ずつの診療経験にとどまるのが日本の現状だと思います。特殊型に対する診療ガイドラインの作成は、今後の課題となっているようですが、個人情報以外の特定疾患の登録票のデータを整理して、今、日本でどんな主・副症状をもつ人が、どのような治療を受けているのか、厚労省から提示していただけるだけでも、患者には参考になると思います。



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