失明の危険性のあるベーチェット病ブドウ膜炎に対する硝子体内インフリキシマブ注射:患者15名に対するパイロット・スタディ

出典 アメリカ眼科学会雑誌2012年9月号より
Am J Ophthalmol. 2012 Sep;154(3):534-541.e1. doi: 10.1016/j.ajo.2012.03.035. Epub 2012 Jul 11. Intravitreal infliximab for sight-threatening relapsing uveitis in Behcet disease: a pilot study in 15 patients. Markomichelakis N, Delicha E, Masselos S, Sfikakis PP. Ocular Inflammation/Immunology Service, Genimatas General Hospital, Athens, Greece.

目的: 失明の危険性のあるベーチェット病の再発性のブドウ膜炎患者に対する抗TNFα抗体の硝子体内注入の安全性と有効性の初期的効果の評価
研究デザイン:前向き、比較対照なし、介入パイロット試験
方法:後部ブドウ膜炎を有する15名の患者の片眼の再燃時にインフリキシマブを1回硝子体内に注入した。最良矯正視力、前房細胞、硝子体混濁、後部炎症を、治療開始時、治療開始1、7,14,30日後に評価した。
結果: 眼内および眼外の副作用は認めなかった。治療開始時の最良矯正視力は0.74(0.15-1.7)であったが、7日には有意に改善し、30日まで持続した(0.30; P < .0001)。前房細胞と硝子体混濁の著しい低下 (ともに P <0.0001)、および網膜血管炎(P = .0001)と網膜炎(P =0.001)に対する有効性が30日目まで明らかであった。類嚢胞黄斑部浮腫は11罹患眼中9眼に残存したが、中心部黄斑部の厚さは、開始時の平均434mmから経過観察終了時には309 mmと有意に改善していた(P <0.0001)。4名では治療開始時に全身的な治療は受けておらず、免疫抑制薬の治療も受けていなかったが、経過観察中に変化はなく、このことが治療効果に影響することはなく、追加治療は必要ではなかった。
結論:これらの所見は、眼内で産生されるか、作用するTNFのいずれか、あるいはその両方がベーチェット病における再発性ブドウ膜炎の発症に重要な役割を果たしており、インフリキシマブの硝子体内投与は、インフリキシマブの全身投与ができないか、禁忌の場合に考慮すべきであることを示している。
さらなる研究により、インフリキシマブの局所投与が、全身投与より好ましい患者を明らかにすることができる可能性がある。

解説(情報不足になりがちなベーチェット病をめぐる研究の現状を紹介するために記載しています。記載された治療の効果や安全性を追認したり、現在の治療を否定するものではないことをご理解ください。)
様々な難治性炎症性疾患の治療法として、インフリキシマブの静脈内投与(点滴)が行われています。この報告は、眼病変についての局所投与(硝子体内注射)による後部ブドウ膜炎への効果を試験的に評価したものです。文献的には、2007年頃から動物を対象としたインフリキシマブの硝子体内投与の検討が行われ、また2009年頃から糖尿病性網膜症や加齢性黄斑変性症などへの臨床応用が少数例で行われていますが、有効性の評価は一定していませんでした。今回の検討は、ベーチェット病のブドウ膜炎に対する30日までと観察期間は短く、あくまでも眼病変だけの検討ですので、多くは全身性炎症の部分症状である眼病変のどのような時に適応となるのかなど、著者らも課題として提起しています。
今月発表された以下の報告はベーチェット病以外のブドウ膜炎も含まれたものですが、6か月後には治療前のような炎症状態に戻ることが確認され、反復投与の必要性を示唆しています。
Long-Term Effects of Intravitreal Infliximab for Treatment of Sight-Threatening Chronic Noninfectious Uveitis. Mohsen Farvardin, Mehrdad Afarid, and Sahab Shahrzad. Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics. December 2012, Vol. 28, No. 6: 628-631